近視 − 遠視

ブローチ 「 金 と 銀 」
平松 保城 (東京芸術大学名誉教授)

   久し振りにクラフト展の審査に出席することになった。

   作者が心をこめた作品を選ぶ責任と、今更という思いがあったが、

自分自身を見直すという気持ちもあって審査場に臨んだ。

   クラフトの殆どの作家は、素材と共に暮らしている。他の生物と同じように、

素材は生き物であり、心を感じている人が多い。

平常は何を創るかというと自分との闘いがあるが、素材を手にする時は、遊び、悩み、

励まし、その可能性を尊重し、自分の考えている方向へと進めていく。

   人間が生きる上で、意味があるか、価値があるか、人間の尊重、空間や五感も考え、

何を創るかという意図が明確な作品に接すると、心も動く。

   反面、素材が生かされず、フォルムやパターンの変化だけを追ったり、

通俗的で提案の乏しい作品は、自然と審査会場から姿を消していった。

   日本では、些細な技術にとらわれ、全体を忘れた近視的な表現が多いように思う。

部分にこだわり騒々しく、周囲の空間との関係や、遠視的な配慮が以外と少ない。

   日本人の生き方も近視的。世界は一つの時代だけに脚下を固めると共に、回りを見、

ゆとりをもって、手を、身体を動かしたいものである。

平松保城 作

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